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弁政連フォーラム 第327号 令和2年7月15日

川北武長先生のご逝去を悼む

我が国の特許制度は人類最大の発明か?
─発明者の権利を憲法で保障する意義─

元日本弁理士政治連盟会長 加藤朝道

元日本弁理士政治連盟会長
加藤朝道


4月5日川北武長先生が急逝されました。パテント5月号(Vol.73 No.5)の標記論文が遺稿となりました。その結びを紹介します。

「即位の礼で、天皇陛下は、国民の叡智とたゆみない努力によって、我が国が一層の発展を遂げ、国際社会の友好と平和、人類の福祉と繁栄に寄与することを切に希望すると述べられた。 しかし、国民の叡知とたゆみない努力が結集されるべきわが国の特許制度が、この半世紀、特許すべき出願の審査を省き、相当数の発明者の権利を脱落させている「わが国の民意(特許制度に対する意識)」とは、一体、何物なのだろうか? 未だ前近代的な「身分社会」(士農工商)の時代のままなのだろうか?
トランプ政権や北朝鮮問題で揺れ,世界情勢が自国第一主義で混沌としつつある今、このようなアンチパテント的な特許制度で、将来のわが国の経済基盤を支えられる程、社会資本や文化が成熟しているとは考えられない。
市場原理と法の支配下の世界で、人類最大の発明と言われる特許制度は、やはり人間の自然権に基づく公開代償説の制度であり、わが国より約百年早くその土台を築き、二百余年後の現在の荒れた世界情勢の中でも揺るがない実験国家、米国の経済基盤を支える制度であることは明白である。
わが国には、ジェファーソンのいう「社会契約」とまではいかないまでも、高橋是清が創設し、明治から昭和45年まで80余年続いた公開代償説の特許制度の輝かしい歴史がある。
新しい令和の時代、わが国も、発明者らとの「社会契約」を名実ともに明らかにし、知財立国による経済基盤を確固たるものにするため、憲法に、発明者らの権利を保障する公開代償説の知財条項を加え(8)(13)、わが国の知られざる第2次プロパテント時代が切り開かれることを切に希望したい。」

参照文献
(8) 川北武長「わが国の憲法に知財法の原理条項を加える意義」、パテント、Vol.71、No.6、2-4頁(2018)
(13)大日方信春「憲法との関係における知的財産制度について」、パテント、Vol.73、No.1、93-96頁(2020)

川北先生は、弁政連副会長を務められ、憲法に知財保護条項を導入する意義について、一貫して主張してこられました。
この度提起された問題は、特許制度の根幹としての公開代償説の貫徹です。公開代償説とは、発明者に発明の公開を代償として一定期間独占権を与える、という基本原則です。
出願公開・審査請求制度の導入以来、公開されただけで審査されない出願が多数発生し、その原則が見失われていることへの警鐘です。

発明者の権利を憲法で保障する意義について、彼は、さらに、パテントVol. 71 No.6(2018)にて詳述しています。これは、当時、憲法との関係における知的財産制度について、弁理士会のワーキンググループに彼も参加して議論を深める中で、彼の研究成果を発表したものです。その後、このWGでは、熊本大学の大日方信春教授の講演を企画し、その講演録がパテントVol. 73 No.1(2020)に掲載されました。憲法学者の学術的見解として、憲法に知的財産保護を規定することの意義が、川北説を有力な説として引用して、積極的に認められたことは、画期的なことです。

常に、百年、二百年の長い視点をもって、特許制度、知財制度の在り方を考え、そのあるべき姿を追求していくことが、川北先生の遺志に応えることになると思います。まさにその弁理士サムライスピリットに、合掌したいと思います。

この記事は弁政連フォーラム第327号(令和2年7月15日)に掲載したものです。

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