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弁政連フォーラム 第274号 平成27年12月15日

日本弁理士会に政治活動は必要ない、のか?

日本弁理士会 前会長 古谷史旺

日本弁理士会
前会長 古谷 史旺
(日本弁理士政治連盟 元会長)

日本弁理士政治連盟(以下、弁政連という。)は、1974年(昭和49年)弁理士会の臨時総会で結成することが決議され誕生しました。

当時の弁理士会の会員数は1,800名前後、弁政連の会員数は380名で全体の20%強、特許庁長官は斉藤英雄氏、弁理士会会長は小橋一雄氏、弁政連の初代会長は福田信行氏でした。その時から41年が経過した現在、弁理士会の名称も日本弁理士会に改まり、会員数は10,901名に膨れ上がりましたが、弁政連の会費納入者は1,039名です。全体の10%以下の有志で支えられています。

1974年11月29日作成の弁政連「設立趣意書」には、次のように書かれています。『……(前省略)しかしながら、こと法律の制定や改正の問題ならびに制度の抜本的あり方についての問題は、立法府たる国会や、国の政策を左右する政治の場に直結し、これら関係者の方々に認識され理解されることが望ましいのであります。ところが弁理士会の活動は、その特別法人としての性格上その政治的行動に限界を感ぜざるを得ません。(以下、省略)』

この「設立趣意書」では、特別法人としての性格をもつ弁理士会の政治活動の限界に触れ、それが故、弁理士会とは別の組織(弁政連)を立ち上げ、政界、官界、財界などに対する政治的行動でもって、50年以上も放置されている弁理士法の改正を実現したいという、強い思いが込められています。

歯に衣着せず端的に言えば、政治を現実に動かすのは「数」と「力」です。「数」は集票力であり、「力」は資金力です。

弁政連は日本弁理士会とは異なり、非強制加入団体で強制的に会費を集めることはできません。“弁理士制度の現状を憂い、将来に夢を託す志を持つ”10%にも満たない有志の会費で活動が支えられているに過ぎません。

「数」も「力」もない団体の要望、陳情をまともに採り上げてくれるところなど、皆無です。

それでも弁政連が活動を行ってきたのは、「知的財産制度を良くしたい」、それにより「日本の経済・産業の国際競争力を高めたい」、併せて「弁理士制度を良くしたい」、という一途な思いに突き動かされてきたが故です。

「数」も「力」もない弁政連は、活動を展開していく中で「学習による知識」を得ました。政界、官界、財界を揺り動かすのは、「数」と「力」だけではありません。最も大切なことは、「国民の利益」、「我が国の利益」を常に考えた行動が採れるか否かです。加えて、燃え尽きることのない「強い情熱」です。

〔過去における弁政連の主な活動〕

1)平成10~13年度

  • 弁政連の強い働きかけで、自民党の衆・参議院議員91名の賛同を得て、「知的財産制度に関する議員連盟」が設立された。会長に与謝野 薫通産大臣、会長代理に保岡興治衆議院議員、幹事長に甘利 明労働大臣、最高顧問に梶山静六衆議院議員が就任した。
  • 自民党司法制度特別調査会会長の保岡興治衆議院議員に対し、「裁判の迅速化」に関する意見書を提出し、『特許裁判所』の創設を訴えた。
  • 政府所轄の経済戦略会議が発表した「日本経済の再生への戦略(答申)」の中で、弁理士等による知的財産専門サービスの一層の充実が図られるべきことが提言された。
  • 衆議院の商工委員会において、与謝野 薫通産大臣は…“弁理士の方々が、法廷に立って法廷活動をやっていただいて良いんじゃないかと思っている”旨の発言をされた。
  • 自民党の知的財産小委員会と司法制度調査会と知的財産制度に関する議員連盟との合同会議に席上において、伊佐山特許庁長官は、弁理士制度の今後の方向として、権利取得のみならず権利活用(侵害訴訟代理等)にも対応…と明確な指針を示した。
  • 「高度情報通信ネットワーク社会形成基準法」(IT基本法)第19条に、初めて法律用語として「知的財産権」の文言が使われ、以後法律用語して定着した。
  • 大正10年以来改正のなかった弁理士法が、80年ぶりとなる抜本的改正に至った。

2)平成14~19年度

  • 甘利 明衆議院議員の尽力で「知的財産基本法」が創設され、知財立国への改革の道が着々と進み始めた。
  • 保岡興治前法務大臣に対し、「司法制度改革について」の要望書を提出し、「知的財産高等裁判所の創設」と「侵害訴訟代理権の付与」を求めた。
  • 平成16年6月、知的財産高等裁判所の設置法案が可決成立した。
  • 平成18年、弁理士に対する侵害訴訟代理法案が可決成立した。
  • 日本弁理士政治連盟創立30周年の記念式典・祝賀会が開催され、開催に先立ち行われた総会で、“知的財産権を憲法に明記すること!”が満場一致で採択され、祝賀会で披露された。

3)平成20~26年度

  • 自民党および民主党の「弁理士制度議員連盟」総会を個別に開催し、「知的財産の喫緊課題」についての意見書を提出した。①特許庁と裁判所のダブルトラック、②中国によるITセキュリティ製品への強制認証制度の阻止、③地球温暖化防止対策を特許法に盛り込むべき、ことを内容とする。
  • 自民党、民主党、公明党に対し、弁理士試験合格者の大増員問題について反対意見を具申した。
  • 国外に技術情報が流出する恐れのある「外国法事務弁護士の法人化設立容認法案」に対する反対運動を展開し、法務省に国会提出を断念させた。
  • 永年の願いであった弁理士法第1条を改正し、「工業所有権」から「知的財産権」に関する専門家としての「使命条項」を創設させた。

このような弁政連の活動に対し、全く理解を示さず、むしろ“日本弁理士会に政治活動は必要ない”と公言して憚らない会員が少なからずいることを聞かされ、私は愕然としました。

確かに、弁政連で活動される会員の中には過激な発言と行動に走る方もいますが、それもこれも「知的財産制度を良くしたい」、それにより「日本の経済・産業の国際競争力を高めたい」、併せて「弁理士制度を良くしたい」、という一途な思いに突き動かされてのことと受け止めたいものです。

過去において、“国が何とかしてくれる”、“国の言うことだから仕方がない”といった他人任せの言葉を、何百、何千回と聞かされてきたことか…。

他人任せだから、他人事だから、少しも良くならない。改革は遅々として進まないのです。

上記した〔過去における弁政連の主な活動〕でご理解頂けるものと信じていますが、弁政連の活動なくして“今日の弁理士制度、知的財産制度の姿は見えて来ない”とさえ、私は思っています。

ところが、現実にはどうでしょう。日本弁理士会の会員数は10,901名に膨れ上がりましたが、弁政連の会費納入者は1,039名です。全体の10%以下の有志で支えられているに過ぎません。

“自分は弁政連の活動はできないが、会費ぐらいは納めてやろう、”という方が1人でも2人でも増えて頂けることを願っています。

この記事は弁政連フォーラム第274号(平成27年12月15日)に掲載したのものです。

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