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弁政連フォーラム 第275号 平成28年1月15日

2016年の新年を迎えて

日本弁理士政治連盟 会長 杉本勝徳

日本弁理士政治連盟
会長 杉本 勝徳

(1)外国法事務弁護士の混合法人の設立は亡国への道へ

○外国法事務弁護士法人ついて
アメリカをはじめヨーロッパやアジアの弁護士が、日本国内において弁護士法人を設立することを法務省が以前から検討しています。いわゆる外国法事務弁護士法人と言われるもので、外国法事務弁護士だけで設立される法人(A法人とよばれている)と外国法事務弁護士と日本の弁護士の混合法人(B法人とよばれている、以下混合法人という)の二種類があり、A法人の設立に関しては、第186回の通常国会においてその法案が成立しました(公布日:平成26年4月25日)。そして今、B法人についても、設立を認めようという動きがあります。
○混合法人(B法人)
外国法事務弁護士だけで設立される法人(A法人)については弁理士業務のみならず、国家の利益も損ねることは少ないと考えられますが、外国法事務弁護士と日本の弁護士との混合法人(B法人)は大きな問題があります。弁護士は弁護士法第3条第2項によって当然弁理士業務を行う事ができますが、そうすると日本の弁護士との混合法人も法人として弁理士業務が可能となります。
○混合法人の問題点
外国法事務弁護士は、日本の法律で個人では特許庁への出願代理手続が出来ないにも関わらず、混合法人経由で日本の特許庁および外国の特許庁へ特許出願の代理業務を行うことができる可能性があります。外国法事務弁護士は、通常は守秘義務を負ってはいるものの、関与の仕方によっては、特許出願前の先端技術情報が外国に漏洩するなど不測の事態を招きかねません。つまり、日本で公開公報によって技術が公開になる遙か以前に情報が外国に漏洩して国家の利益を損ねることになりかねません。
○我が国弁理士業務の支障
米国ではPatent Agent資格のある弁護士しか特許出願代理行為が認められていないのに、日本の混合法人では法人代理が可能となり法人の経営を通じて本国では特許出願代理できない弁護士でも実質的に出願代理業務に関与できてしまうことが考えられます。このようなことになると、日本のユーザーにとって満足な保護が得られない危険性があります。特に中小企業の方々には、弁理士を全面的に信頼して業務を弁理士に任せている方々が多くいらっしゃるのが現状と思われ、尚更危険です。
○1万人弁理士の声と弁政連の対応
弁政連では既に法務省の関係者には混合法人阻止の意見を述べていますが、弁理士会と共同で1万人の声を上げなければなりません。新年早々には自民党の弁理士制度推進議員連盟の会合を開催する予定です。

(2)参議院議員選挙対策

2016年度は1月4日の通常国会の開会で新年が明けました。

集団的自衛権や憲法論議で昨年は久しぶりに国会前のデモが見られ、日本の有権者も眠ってばかりではないようでした。加えて、今年から18歳、19歳にも選挙権が与えられることから、日本の選挙風景はどの様になるのか楽しみではあります。弁政連にとっても、選挙応援のため、正副会長が手分けして全国を駆け回る事になり、今年は忙しい年になりそうです。

参議院議員選挙の投開票日の予想は7月10日と言われていますので、弁政連は4月から選挙対策本部を立ち上げなければなりません。弁理士業務に於いてお世話になっている有力な候補者には推薦状と僅かではあるがカンパをしなければなりません。

一方で衆参ダブル選挙の可能性も囁かれていますが、もしそうなれば1年半で衆議院が解散になり、特に財政が苦しい中でどのように資金カンパが出来るか頭の痛いところです。

また政治的には野党は結束して候補者を絞らなければ、今の巨大与党に対抗は出来ないでしょうし、そうなれば国民の多彩な意見が反映されない事にもなります。

(3)実体面でも「弁理士は知的財産に関する専門家」の実現へ

弁理士は弁理士法によって存在しているのですが(当然のことながら各士業はそれぞれの法律で成り立っている)、他の士業と違って理科系が多い弁理士は、そのことを意識していないことが多く、実は意外と弁理士法の規定の詳細を知らないのが実態です。そして弁理士法には日本の知的財産のインフラを支える充分な規定がありませんでした。ところが昨年の弁理士法改正では、多くの国会議員の先生方や特許庁のお力添えで弁理士法第1条に「弁理士は知的財産に関する専門家として知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする。」と規定されました。「知的財産に関する専門家」、「経済及び産業の発展に資することを使命とする」の改正はその意義が極めて大きく、今後の我々弁理士の活動方向が示されたと言えます。

特に第1条の「知的財産」の括弧書きでは「知的財産基本法第2条第1項に規定する知的財産をいう」と規定されています。その知的財産基本法の定義では「この法律で「知的財産」とは発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物、その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。」と規定されています。

現在までの法改正で満足することなく、弁理士が、実体的にも、このような広範な「知的財産」に関する専門家として活動できる環境を整えるよう努めて参りたいと考えております。

(4)今後の弁理士法改正に向けた対策

上記のように、弁理士法に「知的財産に関する専門家」が規定され、その知的財産の範囲として知的財産基本法に規定されている「営業秘密」が含まれていることにより、現在の規定の「特定不正競争」による制限された不正競争防止法の範囲ではなく、第1条から第31条まですべての不正競争防止法に関する業務を弁理士の標榜業務とする弁理士法改正が望まれます。

著作権に関しても、著作権の専門家としてより広範な業務に関与できるような法改正が期待されます。

更に弁理士試験の低ハードル化によって弁理士資質が低下して、手数料のダンピングや依頼者とのトラブルをはじめ弁理士同士のトラブルも発生しています。何とか弁理士の資質を向上するために弁理士試験の大改革が必要です。

(5)知財立国の為の出願件数激減対策

13年前の小泉総理時代に知的財産戦略本部が立ち上がり、日本は知財立国であることが政策的に決められました。しかし、ご承知の通り我が国の特許出願は2001年に出願件数が43万9千件とピークを打ちその後13年間減り続けており、2014年は32万6千件まで10万件以上減少しました。天然資源が乏しく知財国家を標榜する我が国として、このまま減少し続けていいものかと、真剣に心配します。その一方で中国をはじめアメリカ、韓国、ヨーロッパでは出願件数が増加しています。

日本の出願件数が減少を続ける理由は分かりにくい事ですが、4つあると思われます。その第一が日本のマーケットの拡大に期待が持てないことで、人口の減少や物作りが外国(特に中国)に移ってしまったこと。その第2は大企業の出願が外国優先に矛先を変更したこと。その第3は権利を取得しても使用されない技術が多く(特許権の6割がいわゆる休眠特許になって実施されていない)、権利取得の意味が薄れてきたこと。そして第4が、これが最も大きい理由と思われますが、特許権者が侵害者に対して訴訟を提起しても、原告敗訴率が高く、勝訴しても損害額の認定が小さく、訴訟費用と労力倒れになってしまうこと、その上に104条の3によって権利無効の判断をされること多いことではないか、と思われます。

弁政連としては出願件数減少の分析をして、その減少根拠が分かり、政治的にも経済的にも法的にも対応が可能と思われれば其なりに行動を起こす事が大切だと考えています。

(6)知財訴訟対策

特許権侵害訴訟に於ける原告権利者敗訴率の高さと賠償金額の少なさについては、司法マターであり、弁政連としても対応に苦慮するところですが、敗訴率の高さと賠償金の低さについて、原因が判ればそれなりに対応出来る事だと考えます。敗訴率については、もともと権利の範囲が狭くて侵害者が技術的範囲外の実施なのか、無効原因を包含した権利なのか、裁判所が殊更にクレームの文言に拘わって狭く解釈しているのか、等々原因の究明が急がれます。

賠償額については裁判所が権利者の損害額の認定に殊のほか厳しいのか、侵害者の侵害認定が甘いのか、その辺りについて確り検証して侵害され損にならないように日本弁理士会と協調して弁政連が政治的に運動していくべきだと思います。

(7)特許庁の審査行政に対する協力

世界最高品質の審査を目指し、そして多くの国々で実施されている特許や商標の保護、その他の知的財産権保護をリードして行こうという特許庁の審査行政等に対して、弁理士政治連盟が協力出来ることは、弁理士業務発展のために日本弁理士会と共に協力する事が必要だと思われます。

弁理士業務の大半は対特許庁業務であり、弁理士は知的財産に関する専門家であり、経済および産業の発展に資することを使命としているからです。

(8)弁理士会との協力関係推進

弁理士業務発展の為に必要に応じて日本弁理士会と協調して行動します。

この記事は弁政連フォーラム第275号(平成28年1月15日)に掲載したのものです。

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