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弁政連フォーラム 第278号 平成28年4月15日

5月3日の憲法記念日に寄せて
~憲法に『知的財産権』を明記し、「国民の知的創造力の向上に資するよう配慮しなければならない

日本弁理士会 前会長 古谷史旺

日本弁理士会
前会長 古谷 史旺
(日本弁理士政治連盟 元会長)

  1. 日本弁理士会は、今から遡ること43年前の昭和37年10月に、内閣憲法調査会に対し『発明条項を設ける憲法改正に関する建議書』を提出し、憲法中に「発明考案」に関する特別の条項を設けるべきことを訴えている。
     当時の我が国は、憲法を改正すべしとの機運は乏しく、80%以上の国民は護憲一色であった。
     その中にあって、上記『建議書』を提出するに至った経緯は知る由もないが、それにしても、随分と思い切ったことをされたものだ。その気骨に感じ入るばかりである。
     それに較べ、その後の日本弁理士会の対応は、残念でならない。
     日本弁理士会内に於ける発明に関する憲法改正委員会は、記録を見る限り、昭和43年を最後に廃止されて今日に至っている。

  2. 平成9年、ときの内閣総理大臣は橋本龍太郎氏(故人)であった。弁理士会会長は田中 正治氏。橋本内閣の行財政改革の大合唱が津波の如くに押し寄せ、特許庁までを巻き込み、危なく特許庁が「独立行政法人化」されるところであった。
     日本弁理士会は、勿論大反対だったが、ただ反対のむしろ旗を振り回すのではなく、特許庁を中核に据えた『知的財産権省』構想を掲げ、100名以上の国会議員に訴えて歩いた。
     それは、当時の文化庁、農林省、科学技術庁、特許庁といった各省庁でバラバラに扱っている著作権、種苗法に基づく権利、特許権等の付与、科学技術の振興等を一ヶ所に纏め、統一した政策を行い実行することが我が国の産業強化に繋がると信じたからであった。
     また、翌年には、『特許裁判所』の創設も訴えた。

  3. 梶山静六衆議院議員(故人)、与謝野 馨 通産大臣(当時)、保岡興治衆議院議員、甘利 明衆議院議員を始めとする多くの自由民主党の国会議員の方々のご理解とご協力を得て、『知的財産制度に関する議員連盟』を立ち上げて頂き、政治的理解が一層深められた。
    与野党を問わず多くの国会議員の方々、官界、財界の日本の現状を憂うる心ある方々が『司法制度改革』、『知的財産制度改革』を牽引して頂いた。
    その結果、小泉内閣は、知的財産制度の強化を国家戦略と位置づけ、『知的財産基本法』を成立させた。さらに、裁判所法を改正し、『知的財産高等裁判所』を発足させるに至った。
    弁理士法も、平成12年に実に80年ぶりの大改正が行われ、業務範囲が拡大される一方で、弁理士の社会的責任の重さも示された。続く平成13年には、永年の願いであった『侵害訴訟代人』としての地位が、一定の条件を付けられてはいるが、認められた。
    中川秀直衆議院議員(当時)を会長に頂く『弁理士制度推進議員連盟』も発足し、裁判外紛争処理(ADR)の代理権の獲得に向けて極めて大きな力添えを頂いた。

  4. 平成16年、日本弁理士政治連盟は“知的財産を憲法に盛り込むべきこと”を機関決定し、日本弁理士会と共に粘り強い活動を行って、遂に自由民主党の『憲法改正草案大綱』(平成16年及び平成24年)に『知的財産権』を盛り込ませた。
     勿論、その陰には憲法調査会会長の保岡興治衆議院議員の深いご理解があってのことは言うまでもない。

  5. 読売新聞社「憲法改正2004年試案」(平成16年5月3日公表)
    第35条(財産権、知的財産制度の整備)
    (1)財産権は、これを侵してはならない。
    (2)財産権の内容は、公共の利益に適合するように、法律でこれを定める。
    (3)私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。
    (4)国は、知的創造力を高め、活力ある社会を実現するため、知的財産及びその保護に関する制度の整備に努めなければならない。

  6. 自由民主党「憲法改正草案」(平成24年4月27日決定)
      第29条(財産権)

    1. 財産権は、保障する。
    2. 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。
    3. 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。

    驚くべきは、平成16年5月3日付の読売新聞社の『憲法改正2004 年試案』でも、知的財産制度の整備が条文化されて盛り込まれたことだ。
     忌憚なく私の意見を言わせて頂くならば、『知的財産権』に関する規定ぶりは、独立項を立てた読売新聞社の『憲法改正試案』の方が、解釈の疑義を起こす余地が無く、優れていると思う。

  7. 日本弁理士政治連盟は、平成17年2月8日(火)キャピトル東急ホテルで行われた30周年記念式典・祝賀会において、『知的財産の創造・保護・活用を憲法に!』をスローガンに掲げた。
     我々は世界に冠たる弁理士制度・知的財産権制度の構築を夢みており、この国のあるべき姿を憲法に明記することは、知的財産で国を興す究極の意志の表明であり、極めて重要なことと考えている。
     知的財産の創造・保護・活用が『憲法』に盛り込まれたならば、我々弁理士が知的財産制度の中心的担い手であり続ける限り、世界に冠たる弁理士制度の構築は、夢ではなく現実のものとなる。

  8. このように、日本弁理士会と日本弁理士政治連盟は、常に我が国の“さきがけ”となることを志し、その結果が、知的財産制度及び弁理士制度の更なる改革に繋がると信じて活動してきた。
     知的財産を国家戦略と位置づけるからには、日本国憲法に『知的財産権』を明記し、国民の知的創造力の向上に資するよう配慮することが必要である。

(本原稿は、弁政連フォーラム第147号に掲載されたものを一部訂正・加筆した。)

この記事は弁政連フォーラム第278号(平成28年4月15日)に掲載したのものです。

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