弁政連フォーラム 第300号 平成30年2月15日
日本弁理士政治連盟
前会長 杉本 勝徳
日本弁理士政治連盟は昭和49年11月に発足し、44年の月日を経て今日を迎え、その間に発行した弁政連フォーラムが300号を迎えたことを寿ぐ。300号という膨大な発行数はそれ自体が弁政連活動の記録であり、その中身を繙くと驚くべきことが満載であり、弁政連活動が果たした役割は弁理士と弁理士会にとって極めて重要であったことが判る。300号を記念して弁理士および知的財産制度を通じてこれからの日本をエネルギー政策の側面から展望してみたいと思う。
東北地方を襲った大震災は、1000年に一度発生するかどうかの極めて激烈な災害であり、2万人という途方もない犠牲者を出した。しかし、それ以上に日本列島を震撼とさせたのは東京電力福島原子力発電所の大事故だ。数十万人の人々が住処を追われ、今後何十年と故郷に戻れない悲惨な状態を引き起こしてしまった。
原発事故は過去に旧ソ連と米国でも引き起こされているが、両国と日本では全く事情が異なる。旧ソ連の国土は日本の50数倍、米国は26倍でしかも人の住んでいない場所が大部分の国土である。それに引換え日本は全国総ての地域が居住地域であり,万が一再度原発事故を起こしても大丈夫と言える安全地域は何処にもない。
我が国は政治も産業界も依然として原発と火力発電を中核エネルギーとして政策を進めている。昨年の11月にドイツのボンで開催された第23回地球温暖化対策(COP 23)に関して、2018年1月9日付の東京新聞には次のような社説が掲載されている。
「日本政府は高効率の石炭火力発電所の輸出による『貢献』をアピールし、世界から非難というより、嘲笑を浴びました。」
「『もはや途上国なのか』。日本から参加した数少ない企業のメンバーは、かつて『省エネ大国』あるいは『環境先進国』と呼ばれたこの国の危機感の薄さ、いつの間にか開いてしまった欧米や中国との距離に打ちのめされました。」
この社説は、世界が再生可能エネルギーの潮流にあるにも関わらず、我が国は政治も産業も周回遅れであることを嘆いている。
原発や化石燃料に頼らない風力発電や太陽光発電その他の電源であるクリーンエネルギーについては、人類の叡知が試されている。そこにはイノベーションを競う産業界の技術の結集があり、国家がこれを全力でサポートする構図がある筈である。
ところが我が国は前述のとおり再生可能エネルギーには冷淡であり原発と化石燃料発電を中核エネルギーとしている為に、再生可能エネルギーの技術開発が遅れ、アメリカはもちろん中国にも技術開発に遅れをとり、特に特許出願に於いては質・量ともに大きな差をつけられている。
弁政連は、政治家とともに我が国の技術開発を促進し知的財産活動を活発化し、延いては弁理士の国家的使命が充分果たされることを願って活動している。我が国の現在のエネルギー政策では再生可能エネルギー関連の特許出願が少なく、10年20年後に欧米は勿論、中国にも電源を制覇されるのではないかと危惧する。過去の弁政連活動は直接ではないが、その様な使命に基づいて活動している。
平成9年10月、特許庁の独立行政法人化(エイジェンシー)が急浮上した。これは行財政改革の議論が盛んだった頃、自民党がイギリスの例を引き合いに言い出したのが発端で、橋本内閣が採り上げた。
当時の荒井特許庁長官から完全阻止に協力して欲しい旨の要請があった。経産省の村田成二大臣官房長に会って経産省の真意を質した。経産省は、これからの産業政策に特許庁は重要な役割を担うから手放せない、との認識で、独立行政法人化(エイジェンシー)を望んでいないことが確認できた。
それからは、衆議院と参議院の150名に及ぶ国会議員に対し、弁政連の総力を挙げて独立行政法人化(エイジェンシー)に反対する旨の大キャンペーンを展開した。宮沢喜一元総理大臣は“特許庁は審判機能を有するから国家機関でなければならない。”と極めて明快な認識を示された。
各方面への必死な働き掛けが功を奏し、独立行政法人化(エイジェンシー)を何とか阻止することに成功した。もし、特許庁が独立行政法人(エイジェンシー)という半官半民にされた場合、特許庁の監督下に置かれている弁理士制度は、国家資格を維持できるか不透明であった。
平成9年10月、政府の行政改革会議会長代理の小里総務庁長官に対し、各省庁に散らばっている知的財産部門を、特許庁を中核として一極に集中させる「知的財産権省」の創設を要望した。また、平成10年1月、自民党司法制度調査会の保岡興治会長に対し、米国のCAFCに類する「特許裁判所」を創設し、知的財産制度で立国する我が国の姿勢を内外に示すべきことを要望した。
平成12年12月、保岡前法務大臣に面会し、「司法制度改革について」の要望書を提出した。知的財産権に対する弁理士への侵害訴訟代理権の付与と、「特許裁判所」を創設することにあたって要望事項を説明した。
我が国には、特許法、実用新案法、意匠法、商標法のほかに、不正競争防止法、著作権法、種苗法等々の知的財産関係法律がある。これらを束ねる憲法として機能する「知的財産基本法」は、弁理士の業務を拡大する時の根拠となり得るし、特許庁、文科省、財務省、農水省、総務省等に分限管轄されている知的財産を一括管理する「知的財産権省」創設が容易となることが期待される。
弁理士試験合格者の登録前研修が義務化するための法案が平成19年6月、弁理士法の一部を改正する法律案として成立し、弁理士試験合格者の登録前研修が義務化した。このことと併せて弁理士の登録後研修も義務化された。これにより、弁理士の資質が向上し、制度を利用する国民の信頼に応え得る。
平成21年10月、菅直人内閣副総理大臣、直嶋正行経産大臣、小沢鋭仁環境大臣、大畠章宏議員(知財議連会長)と個別に会談し、「地球温暖化防止対策に関する提言」を提出した。その内容は、①研究開発・技術開発促進、②世界に知的財産権包囲網構築、③技術の世界標準化を順次ステップアップして行く戦略が重要と説明。
日本弁理士会と弁政連は、平成26年1月から自民党、公明党、民主党の経済産業部会、衆議院と参議院の経済産業委員会、自民党、公明党、民主党の弁理士制度推進議員連盟の所属国会議員に対し「使命」条項を含めた弁理士法の一部改正の説明に回り、早期の法案成立を強く訴えた。
当該法案は参議院先議で、平成26年4月1日に参議院経済産業委員会を可決、4月2日に参議院本会議を可決、4月23日に衆議院経済産業委員会を可決、4月25日に衆議院本会議を可決、成立した。本法律案は平成27年4月1日から施行されることとなった。
これからの弁政連は、活動の中心は言うまでもなく我々弁理士業務の発展と防衛であるが、一方で政治家とともに弁理士活動を通じて我が国の経済発展に寄与することも重要である。そのためには1万人を超す弁理士が弁政連活動に積極的に参加して(資金的にも)、弁理士の使命を果たすようにすることが義務であり喫緊の課題でもある。
この記事は弁政連フォーラム第300号(平成30年2月15日)に掲載したのものです。
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