弁政連フォーラム 第317号 令和元年7月15日
スペシャル対談【滝波宏文経済産業大臣政務官・水野勝文弁政連会長】
対談の様子
令和元年6月20日に日本弁理士政治連盟の水野会長は、経済産業省が本年5月に滝波宏文経済産業大臣政務官を中心として「グローカル成長戦略」を取りまとめ、発表したことを踏まえて、滝波政務官と懇談の場を持ちました。
滝波政務官は、平成30年10月2日に発足した第4次安倍改造内閣において、経済産業大臣政務官に就任されました。また、政府に入り党の役職を退かなければならなくなるまでは、自由民主党において知的財産戦略調査会(会長:甘利明衆議院議員)の幹事も務められ、日ごろから我々を支援してくださっています。
「グローカル成長戦略研究会」報告書について
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190515003/20190515003.html
この報告書には、弁理士も関われるであろうことが多いことから、今回、スペシャル対談として皆様に紹介させていただきます。
【水野】本日は、グローカル成長戦略について、弁理士がどのように関わり、貢献し得るかについていろいろとお話をお伺いできればと思います。
1.地方から伸び、多様な産業が育つことが重要(diversification)-報告書2頁
【水野】各地域の中小企業の現場において、ノウハウ・ブランド等の知的財産の認識、差別化ポイントの認識は容易ではありません。中小企業は、それぞれの現場の状況に応じた、早い段階からの知的財産の認識や取り扱い、さらに、知財戦略を立てるため、特許調査・商標調査等の情報収集が重要になるのではないでしょうか。また、その際は、銀行などと同様に社会インフラとしての弁理士が活躍できる場があると思いますがいかがでしょうか。
【滝波政務官】グローカル成長戦略の一つのテーゼとして、多様な資源を持っている地方や中小企業がその資源を世界に開放し、世界を相手に稼いでいくということがあります。技術が高度化し、競争相手が世界に広がる中で、知財をめぐるコンサルティングの必要性が増していると感じています。
今ある日本の大企業も、かつては中小企業でした。高度成長期に、中小企業が大企業になることで日本経済を成長させてきた訳です。弁理士には、地方の中堅・中小企業に対して、早期の段階から知的財産についての気づきを与えていただいて、中堅・中小企業の宝を発掘し、日本各地の成長を支えて欲しいと思います。
2.シリコンバレーのイノベーションエコシステム(インキュベーター・アクセラレーターと呼ばれる存在が、新技術・サービスの商用化に大きな役割)-報告書3頁
3.ドイツの「隠れたチャンピオン」(差別化された製品に特化、ブランド・品質重視)-報告書5頁
【水野】インキュベーター・アクセラレーターと同様に、早い段階から知的財産の認識・取り扱い・戦略について、現状に応じて臨機応変にアドバイスする、秘密保持義務が明確に担保された弁理士等の専門家も重要になるのではないでしょうか。
例えば、機微情報の秘匿も重要な選択肢です。弁理士は具体的なノウハウ保護手段等もアドバイスしています。
【滝波政務官】私もスタンフォード大学の研究所に所属した際に生活しましたが、シリコンバレーは、自然豊かな、車が無いと移動できないようなところです。そのような地域から多くのグローバルIT企業が育ち、成長センターとなっている「大いなる田舎」です。スタートアップを含むこれらの企業を生んでいる背景には、イノベーションエコシステムがあるからで、その中には、ITや技術などに長けた理系的な人材と、ファイナンスや法務等の文系的な人材の双方が組織の中にいて、しっかりと経営戦略を考えられる環境があるからだと思っています。
弁理士は理系的な技術を理解できる素養を持ちながら、知財や法務などの文系的な業務もカバーされており、非常に良いポジションにいると思います。日本のイノベーションエコシステムの中で、弁理士が活躍する場は今後より一層増えていくのではないかと思っています。
【水野】ドイツはいかがでしょうか。
【滝波政務官】ドイツのハイルブロン=フランケンという地域を視察しました。人口90万人ほどの地方ですが、製造業の売上高に占める海外売上の比率が50~70%と非常に高いことに驚きました。なぜ海外取引の比率が高いかというと、かつて東西ドイツに分かれていた時代に、西ドイツだけでは市場規模も小さく、言語の壁はあるものの、国境を越えた取引を前提にビジネスを進めてきたからだと聞きました。弁理士の方々は海外とのネットワークも持たれていると聞いています。日本の中小企業は、言語の問題もあり、まだ十分に国際化されていません。弁理士の力も借りながら、国際視点でどのように商品を売っていくのか、どのようなリスクに対応しなければならないのかということを考えていくことが、これからの時代において重要だと思います。宗田節(鰹節の類、高知県土佐清水の名産)の事例を聞きましたが、最初のコンセプト作りの時点から、外国語の商標を考えるなど海外展開の視点を最初から持ってビジネスを開発した好事例だと思いました。
4.中小企業の製品輸出にかかる課題、農林水産物の輸出にかかる課題、インバウンドにかかる課題(帰国後も購入・利用で継続的消費につなげる)-報告書7頁から9頁
5.超高齢社会を体現する地方(健康・医療・介護に関する新製品・サービスが世界を牽引する可能性)、インバウンドを活用したオープンイノベーションの推進-報告書11頁、18頁
【水野】輸出先各国における、他者の知的財産の状況を把握し、場合によって調査や情報収集し、自社の知的財産の状況と手当が重要になるのではないでしょうか。
また、インバウンドの人々に選ばれるために必要なブランディングやそのブランドを各国で使用するための国際商標出願等の手当が欠かせないのではないでしょうか。弁理士は国際的な知財法律事務所ネットワークも持っています。
さらに弁理士は、オープン・クローズ戦略の適用や、共同研究開発契約等にもタッチしていますので、何らかのお手伝いができるのではないかと思います。
【滝波政務官】グローカル成長戦略のもう1つのテーゼに、キャッチアップの時代はもう終わって、我々はフロントランナーになっており、そのような時代には、よりダイナミズムのある経営を行う必要があるという点があります。一昔前の日本は、キャッチアップ型で、欧米がやっている商品開発や生産活動を、より効率的に行えば売れるというビジネスモデルがありましたが、フロントランナーとなった今、後続国の企業に追いかけられる立場になりました。国内マーケットだけで事業を展開していても、必ず真似される、国内では真似されなくとも海外市場で類似品が売られることを想定していなければならない。そのリスクへの対処を、弁理士が持つ、国際的な知財法律事務所のネットワークの利用や、オープン・クローズ戦略の適用、共同研究開発契約等で行い、中堅・中小企業の成長をお手伝いいただくことは充分にあり得ると思います。
6.事業化に向けた支援体制の構築・強化(支援機関の連携)-報告書12頁
【水野】弁理士の選定に当たっては、弁理士の専門分野や経験が重要な要素となる場合があります。故に、知的財産の専門家たる弁理士も、それぞれの事業者が自らの性格・特色にマッチした弁理士を選択でき、他の支援者・支援機関と連携させられる仕組みが重要になるのではないでしょうか。
弁理士は、それぞれの専門を越えた協業ネットワークがあり、かつ、法的にも誠実に業務を遂行する義務、守秘義務が課せられていますので、そのネットワークの実効性が期待できます。
【滝波政務官】冒頭で弁理士も銀行のように社会インフラとしての役割を期待されているというお話がありましたが、銀行の中でも特に地方銀行は、昔からの預貸業務だけで十分な利益を上げるのが難しい時代になっています。そのような中で、資産運用に手を出すものの必ずしも上手く行かず、経済産業省が昨今推奨している事業承継への支援を含めて、事業コンサルティングをどうマネタイズしていくかという方向に移行しています。弁理士には守秘義務がかかっているため、その点からも事業者が安心して相談できるパートナーだと思いました。加えて、知財を通して事業をマネタイズすることには弁理士の方に強みがあると思っています。また、専門家のネットワークもお持ちだと聞き、広い意味での知財コンサルティングの役割が期待できると感じました。
【水野】我々弁理士の社会インフラとしての役割を銀行にも知っていただいて、クライアントのために弁理士を紹介する、つなぎをする。クライアントは安心して相談できる、となればいいですね。
【滝波政務官】最近、ストックオプション税制を、弁理士も含めた外部の人材に使っていただけるように法改正しました。成長途上の中堅・中小企業と共に弁理士がストックオプションなども活用して一緒に成長していくというのが、まさにシリコンバレーのイノベーションエコシステムのやり方だと思います。是非、このような制度も活用して、地方の中堅・中小企業の成長、ひいては、日本経済の発展に力を貸して欲しいと思います。
7.農林水産物・食品のブランディング-報告書16頁
【水野】工業品以外でも、海外展開を視野に入れたブランディング戦略、知財戦略、情報調査が必要だと思います。弁理士は、特許や商標等の知的財産関係手続について、国際的な法律家ネットワークを維持していますので、この分野でも貢献できるのではないかと考えています。
シャインマスカットもあまおうも和牛の精液も、その世界だと思います。
【滝波政務官】グローカル成長戦略でも農林水産品の輸出について戦略に盛り込んでいます。農林水産品の輸出額は、政府目標1兆円の達成に近づいてきています。一方で、工業製品以上に十分な対策がなされていないという印象を持っています。日本食や日本産の農作物の評価は高いですから、その分、狙われやすいということを意識するべきだと思います。
8.おわりに
【水野】一つは、今回の改正でストックオプション税制もそうですが、制度が使いやすくなることが大切だと思います。つまり、地域の人が訴訟を強いられたり、あまり苦労をしなくても、権利を持つことでちゃんと社会的に認められ、取引ができる。不動産登記と同じように特許権もなるべきだと思っています。特許庁で認めてもらい、登録をしたら社会的に尊重され、経済活動の資産として機能することが大切。財産だから。
もう一つが、弁理士にいかにアクセスしやすくするか。これは実際に現場で使えるようにすること。
制度を使いやすくするのは経産省特許庁(国)が進めていること、一方、弁理士がもっと現場に入って実際に使いやすくなる仕組みを作ること。そういうところで最後に弁理士に応援メッセージをいただければ。
【滝波政務官】シリコンバレーのイノベーションエコシステムのお話で指摘した通り、文理融合型のセンスをお持ちの弁理士が、地方の中堅・中小企業の成長に貢献いただける可能性は大いにあると感じました。
しかし、弁理士の仕事はまだ都市部に集中している印象を持っています。また、中堅・中小企業も弁理士を活用するという発想に至っていない場合が多いように感じています。弁理士にご活躍いただく機運を盛り上げていただき、その活躍の場を、より地方に、より中堅・中小企業に広げていただければと思っています。
左から滝波宏文大臣政務官、水野会長
この記事は弁政連フォーラム第317号(令和元年7月15日)に掲載したものです。
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