弁政連フォーラム 第318号 令和元年8月15日
元日本弁理士会会長
元日本弁理士政治連盟会長
古谷 史旺
今から5年前の2014年4月25日に、弁理士法の一部改正案が国会で審議され可決成立した。その内容は、弁理士法第1条に「使命条項」が創設され、弁理士の向かうべき道が明確に示された。
弁理士法第1条は次のとおりに改正された。
〔第1条〕
弁理士は知的財産に関する専門家として、知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする。
一方、旧弁理士法第1条は次のとおりに規定されていた。
〔第1条〕
この法律は、弁理士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、工業所有権の適正な保護及び利用の促進等に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを目的とする。
改正された弁理士法第1条に規定する「知的財産」とは、知的財産基本法第2条第1項に規定する「知的財産」と同義であり、「知的財産権」とは、知的財産基本法第2条第2項で規定する「知的財産権」と同義であることが明記された。
弁理士のフィールドは、特許、実用新案、意匠、商標といった狭義の工業所有権(産業財産権)から、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権、その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利までをも含むこととなり、大幅に広がった。 弁理士法第1条に「使命条項」が創設されて、5年が経っているにも拘らず、種苗登録の代理及び地理的表示(GI)登録の代理が、未だに業務に取り込まれていない。
種苗登録をするための書類の作成は、弁理士が日常的に行っている特許明細書の作成業務と共通したものがあるし、地理的表示(GI)登録をするための書類の作成には、産品等の特性や生産管理方法の記載など、特許明細書で必要とされるのと同等な記載が求められる。また、種苗と地理的表示(GI)の場合、技術の結晶ともいうべき新品種の種又は苗が、直接的に海外に流出する、又はそれらに関する情報が海外に流出するといった事態が、実際に発生しており、本来、開発者に還元されるべき利益が損なわれている。さらに、「日本産」(made in Japan)というブランドへのただ乗りや信用の希釈といった問題も生じている。このため、こうした事態への対応は喫緊の課題である。
一方で、弁理士は、長年にわたり、海外の代理人と連携して海外での知的財産の保護に努めてきたという実績と経験とがあり、そうした経験を生かして、外国における種苗やGIに関する案件についても、海外の代理人との連携を取りつつ対処することが可能である。
したがって、種苗登録の代理及び地理的表示(GI)登録の代理業務を誰が行うのが適切かと言えば、弁理士を除いて他にはいない。我が国の国益と直結することから、制度を利用する国民の安心安全に寄与すべく、弁理士の業務に取り込むことが最も相応しく、急ぐべきだ。
この記事は弁政連フォーラム第318号(令和元年8月15日)に掲載したものです。
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