弁政連フォーラム 第328号 令和2年8月15日
日本弁理士政治連盟
会長 水野 勝文
日本弁理士政治連盟は、2020年6月22日に産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 報告書「AI・IoT技術の時代にふさわしい特許制度の在り方―中間とりまとめ―(案)」に対して意見書を提出しましたので、その全文をご紹介します。
●「新たな訴訟類型(いわゆる二段階訴訟)の創設」を早急に進めるべきと考えます。
中間案の「5.円滑な紛争処理に向けた知財紛争処理システム」の「(1)早期の紛争解決を図る新たな訴訟類型」(第18~24頁)における検討は、早期紛争処理システムが迅速なビジネス対応を促し、イノベーション・エコシステムを有効に機能させるための重要インフラであることから、時宜を得たものであり、かつ、的確な検討がされており、二段階訴訟制度の早急な創設を期待します。
この二段階訴訟制度の導入と、昨今の裁判実務における損害額算定方法の見直し状況により、侵害し得を防ぎ、特許を始めとするイノベーションの評価・見極めの促進に繋がり、イノベーションがビジネス資産・社会資産として適正に認知・評価されるようになることを期待します。
引いては、有用なイノベーションの社会実装の促進に寄与する制度となるものと信じます。
(理 由)
情報処理、通信が高度発達した今日では、日本に限らず世界における産業の栄枯盛衰は目覚ましいものがあり、ビジネス上の判断・見極めのためにも、知財裁判も迅速化が要請されています。
知財裁判で侵害論と損害論を切り離すことにより、原告、被告の両当事者は第一段階目における侵害論のみの議論に専念できるし、裁判所も第一段階目の判決を早期に出せます。また、原告は第一段階目の審理を睨みながら、損害の立証に必要な証拠の収集等の準備、又は中止ができます。
一方、第一段階目判決で侵害が認容され、損害賠償義務が確認された場合、第二段階目の損害賠償請求訴訟を行うことなく和解を促進できるので、紛争が早期に解決できます。なお、和解できないときでも損害賠償のための証拠の提出が迅速に行えます(中間案によれば、ドイツでは、第二段階目の訴訟が提起されるのは、第一段階目で特許侵害が認容された訴訟の約1割程度とのことであります)。第一段階目の判決で侵害が認容されない場合は、原告、被告双方は損害論のための証拠の収集、提出等の作業が必要なくなります。
即ち、新たな訴訟類型の創設により、知財裁判における裁判の迅速化と効率化、効率的な進行を同時に図れる利点があり、訴訟経済の観点からも望まれます。
当然、損害賠償請求権の時効完成の猶予規定は設けるべきと考えます。これがなければ、折角二段階訴訟制度を利用して第一段階訴訟で勝訴しても、時効を回避するための第二段階を強いられる場合が増えかねません。和解等による知財紛争処理システムの効率化を阻害しかねないと考えます。
また、我が国において、機微情報や技術情報管理の重要性・あり方が再検討されるなどの諸状況、および、実務状況に鑑みると、ドイツのような「会計情報請求権」は当面見送るべきと考えます。
この記事は弁政連フォーラム第328号(令和2年8月15日)に掲載したのものです。
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