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弁政連フォーラム 第344号 令和4年1月15日

「弁理士試験」制度を、このまま放置していて良いのか!

元日本弁理士会会長
元日本弁理士政治連盟会長
古 谷 史 旺


(1)受験者の総数が10,000⇒4,000を割り込み、魅力が失われている。
(2)選択免除の合格者が70%を超え、試験制度の不公平感が否めない。

平成12年改正前の弁理士試験は、第一ステージの「多枝選択試験」(短答式)が、特許、実用新案、意匠及び商標に関する法令(工業所有権法)及び条約類の中から50題が設問され、数百人に篩い落とされる。

篩いに残った数百人は第二ステージの「論文試験」に臨む。論文試験は5科目の必須科目と3科目の選択科目がある。必須科目は、特許、実用新案、意匠及び商標に関する法令及び条約類。選択科目は指定された科目の中から受験者が3科目を予め選択し受験する。各科目とも原則2問が出題され、1答でも基準点に達しなければ不合格となり、翌年全科目を受け直すこととなる。

第三ステージの「口述試験」に臨めるのは1/5以下。「口述試験」で篩い落とされるのは7~10名程度。口述試験の不合格者のみ、翌年に限り論文免除の特典が与えられる。受験者総数に対する合格者の割合は2~3%という狭き門であったが、不公平感は全く無かったし、合理的であった。

平成12年改正の弁理士試験は、「短答式試験」に著作権法と不正競争防止法を加え60題が設問されることとなり、それなりの改正意義はある。

ところが、「論文試験」の必須科目から条約類が除かれ、選択科目も指定された科目の中から受験者が1科目のみを選択し受験する。従って、平成12年改正前の論文試験全8科目から全4科目に減り、そして免除規定も拡大され、①修士又は博士の学位保持者、②公的資格取得者(技術士、薬剤師等)が選択科目を免除されることとなった。合格率は6~7%に急上昇し、特許庁の大増員政策は達成された。

平成19年改正の弁理士試験は、下記のとおり免除(対象者-免除内容)が更に拡大された。
③短答式試験合格者-2年間の短答式試験免除、
④大学院修了者(工業所有権に関する科目修得者)-短答式試験のうち工業所有権に関する法令及び条約の試験免除、
⑤論文試験(必須)合格者、-2年間の論文試験(必須科目)免除、
⑥論文試験(選択)合格者、-その後の論文試験(選択科目)※永続的に免除-
⑦論文試験の選択科目免除-修士又は博士の学位保持者、公的資格保持者(技術士、薬剤師等)

この度重なる改正により、合格率は8~10%に上昇した。

平成26年改正の弁理士試験の選択科目では、唯一の文系科目である「弁理士の業務に関する法律」が「民法」(総則、物権、債権)のみとなった。また、免除規定の対象者に、専門職大学院が修了要件として定める一定の単位を修得して、文部科学大臣が定める学位を有し、当該専門職大学院が修了要件として定める論文の審査に合格した者を含めることになった。

本稿執筆時点では、今年度の弁理士試験で何名が合格するかはわからないが、筆者が問題にしているのは、最終的な合格者数ではなく、「弁理士試験」の受験者を激減させた原因である。

何の特典もない大卒受験者は、先ず、第一ステージの「短答式試験」を受けなければならない。次いで、第二ステージの「論文試験」(必須科目)である特許・実用新案、意匠、商標の3科目を受けるが、この中には工業所有権に関する条約も含まれている。そして、理系の受験者であれば、理工Ⅰ~理工Ⅴ及び法律(民法)から1科目を選択することになる。一方の文系受験者は、法律(民法)のみが選択肢となることが多いのではないか。第三ステージの「口述試験」に大きな変更はない。

平成19年改正の弁理士試験では、受験テクニックとして、条文数が1,044条と圧倒的に多い民法を避けて、条文数の少ない「著作権法」とか「不正競争防止法」とか「独占禁止法」等を選択できた。それが平成26年 改正の弁理士試験では、「民法」(総則、物権、債権)のみとなり、文系受験者からすれば、もの凄い負担増となった。

公平であるべき「弁理士試験」が、合格者の大幅増を狙うあまり、必須5科目、選択3科目の合計8科目の“一発合格”制度から、必須3科目、選択1科目の4科目に減らし、併せて様々な免除規定による“段階的合格”を可能とさせ、「受け易く受かり易い弁理士試験」に変貌させた。

その結果、受験者総数は10,000から4,000を割り込み、合格率も2.8%から8~10%に上昇し、希少価値はなくなり、魅力が失われる結果を招いている。

まして、大学院修了者には、選択免除という特典が与えられ、何の特典もなく圧倒的なハンディを背負わされる大学卒業者は「弁理士試験」に対する不公平感を感じ、魅力を失墜させた。受験者総数の激減は、このことを如実に示している。

過去3年間の弁理士試験合格者の平均年齢は、37.8歳となっており、受験者の多くが大学院修了か、他の資格を取得してから弁理士試験に臨むという極めて変則的な受験となっている。

知的財産業界の活性化を果たすには、若くて有為な人材の排出が不可欠であり、このままでは、将来展望が全く望めない。「弁理士試験」制度の抜本的な改革が待たれるところである。

この記事は弁政連フォーラム第344号(令和4年1月15日)に掲載したものです。

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