弁政連フォーラム 第373号 令和6年12月15日
小池百合子東京都知事が、日本弁理士会関東会に対して来年度の東京都の予算編成に向けたヒアリングの機会を設けてくださったことから、令和6年11月25日に、日本弁理士会関東会の高橋副会長、瀧野副会長、池田幹事、吉田幹事、本谷東京委員会委員長及び小野東京委員会副委員長が東京都庁を訪問し、要望を伝えました。
弁政連は、このヒアリングの前に都民ファーストの会東京都議団、都議会公明党及び東京都議会立憲民主党に同様の予算要望を行い、今回の小池都知事のヒアリングの実現に協力したことから、今月号ではその様子をお伝えします。
要望書の手交
ヒアリングの様子
まず、日本弁理士会関東会が要望した内容の趣旨は以下のとおりです。
我が国の政治・経済の中心である東京都には、我が国の経済産業を牽引する原動力の役割が期待される。東京都においては、他の道府県に類を見ないほど多彩な支援事業が展開されているが、知財面のサポートを強化し、東京都が率先して知的財産を積極的に利活用できるエコシステム構築の実現を図ることを要望する。
<要望>
1.中小企業への事業化支援のための知的財産権取得費用の補助拡充
2.知財見本市の開催、大学等研究開発成果 マッチング支援
3.アントレプレナーシップ育成プログラムの拡充
4.わが町のブランドコンテストの開催
5.スタートアップ東京都楽市楽座税制の創設
6.中小企業の知財活用事業者への税制優遇措置の導入
<概要>
1.中小企業への事業化支援のための知的財産権取得費用の補助拡充
HTT(電力をへらす・つくる・ためる)及びグリーンテクノロジー関連分野における発明は、気候変動・地球温暖化対策に寄与し、中長期的なエネルギーの安定確保にも資する。これらの分野の技術の研究開発を促進すること、並びに、これらの分野の優れた技術を基に新しいビジネスを展開する意欲的な中小企業に対し、国内外での権利取得を躊躇させることがないよう、競争力強化支援策として知的財産権取得を推進することは、事業支援策として極めて重要である。
①HTT及びグリーンテクノロジー関連発明についての国内特許出願支援の新設
東京都から各区市町への費用補填、また、補助金が無い区市町村の事業者に対して東京都が直接支援できるよう、都の取得補助金制度の新設を要望する。
②HTT及びグリーンテクノロジー関連発明についての外国特許出願支援の拡充
HTT及びグリーンテクノロジー関連発明についての特許取得費用について、枠の増額を要望する。
2.知財見本市の開催、大学等研究開発成果 マッチング支援
日本の経済の中心である東京都では、多くの個人発明家、スタートアップ・ベンチャー企業、中小企業、大企業、大学等が保有する有望な知的財産が数多く眠っており、これら眠っている知的財産をコラボレーションによって実用化することによって経済発展の起爆剤の一つとしたく、知財見本市の開催及び大学等研究開発成果のマッチングの機会を提案する。
①知財見本市
②大学等研究開発成果マッチング
3.アントレプレナーシップ育成プログラムの拡充
東京都は、アントレプレナーシップ育成プログラムを行っている。しかし、起業の基になる、課題(問題点)の見つけ方及びその解決策に関する演習は少なく、起業のベースとなる新たな課題を見つける演習は不足していると思われる。
また、起業家にとって最も重要な知的財産の保護に関するプログラムが含まれていない。そこで、以下を提案する。講師には、アイディア発想及び知財保護に長けた弁理士を活用願いたい。
①小中高生向け起業家教育推進事業への弁理士の活用
②課題発見法、課題解決法及び知財保護法の習得
4.わが町のブランドコンテストの開催
地域の住民、学校、商店街、金融機関等が自ら地域のメリット・価値について、見直すきっかけとして、わが町のブランドコンテストを開催する。更に都が各コースでの優秀者にそれら発案を地域のブランドとして発展できるよう、イベントを開催し、ブランドの定着を図る。また、弁理士等の専門家、金融機関等による支援組織の設立を支援し、フォローする体制を作り、資金援助することも検討することを要望する。
5.スタートアップ東京都楽市楽座税制の創設
東京都は、2030年度までに都内の開業率12%の達成に向け、起業家の裾野を拡大するための取組を実施している。
東京都における中央世帯の可処分所得は、全国12位であるが、基礎支出等を差し引いた中央世帯の可処分所得は、全国最下位である。
起業時には多額の資金が必要であるが、上記のように可処分所得は少なく、資金不足による脱落が懸念される。そこで、起業家に対し税制面で支援する東京都楽市楽座税制を創設し、起業時における資金不足を招かないように支援することを要望する。
①創業後10年以内の中小企業(含む個人事業主)の都税を免除する。
②創業後10年以内の中小企業(含む個人事業主)が支払った消費税相当分の金額を、都が補助する制度を創設する。
6.中小企業の知財活用事業者への税制優遇措置の導入
国において、特許権等をはじめとする知的財産権により得られた所得について税率を優遇する「イノベーションボックス税制」の導入が決まった。
しかしながら、対象となる所得の範囲が知財のライセンス所得及び譲渡所得のみで、当初期待されていた知財を組み込んだ製品の売却益が含まれていない。このため、中小企業においては、知財をライセンス又は譲渡するケースは少ないことから、イノベーションボックス税制の恩恵を十分に受けることが出来ない。
中小企業における知財活用を積極的に取り入れた事業展開を支援するため、東京都版の「イノベーションボックス税制」の検討を行うと共に、その実現を図ることを要望する。
この要望に対して、小池都知事からは以下の回答がありました。
・東京都は、2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減する、「カーボンハーフ」を表明するとともに、この実現に向けた「ゼロエミッション東京戦略」に取り組んでいる。この「ゼロエミッション東京戦略」の実現に寄与する新たな技術を知的財産として保護、活用することが重要と考えており、都は特許出願費用に関する助成金や知的財産権取得に関する相談体制を整えているので、弁理士のみなさまにもご協力いただきたい。
・知財見本市について、都も中小企業が大企業のもつ知的財産や大学の研究開発の成果を利用して、新たな製品開発や販路確保の取り組みを行うことは重要と考えており、支援活動を行っている。そのような活動を通じて今後も中小企業の知的財産の活用を後押ししていく考えである。
なお、ヒアリングの様子は動画配信されており、こちらから視聴可能ですのでぜひご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=NGP8ZmyNj5s&t=3563s
※動画の進行状況バー(赤い線)の59:08からが日本弁理士会関東会のヒアリングです。
小池都知事におかれましては、貴重な機会を設けてくださり、略儀ながら本誌面をもって御礼を申し上げます。
この記事は弁政連フォーラム第373号(令和6年12月15日)に掲載したのものです。
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